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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)4073号 判決

原告 本田佑吉

被告 稲垣春夫 外一名

主文

被告稲垣は原告に対し金三一九、五七二円を支払え。

被告藤原は原告に対し金三〇六、七四四円を支払え。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り被告等に対し各金一〇万円の担保を供するときは仮に執行することが出来る。

事実

(請求の趣旨)

被告稲垣は原告に対し金四七三、一四〇円を支払え。被告藤原は原告に対し金四五四、一〇四円を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。との判決並に仮執行の宣言を求める。

(請求の原因)

一、「原告は別表〈省略〉第一、物件目録記載の宅地三筆合計三五坪五合三勺の所有者であるが、被告稲垣に対しその内宅地一八坪一合三勺を昭和二一年一〇月二一日以降、被告藤原に対しその内宅地一七坪四合を昭和二三年一二月一日以降夫々賃貸し来り、その約定賃料はいずれも当初地代家賃統制令に準拠してその制限範囲内で定めた、その後数度の統制額の改訂を経て、昭和二八年三月当時の約定賃料は月額にして被告稲垣の分は金一、六〇〇円、被告藤原の分は金一、五〇〇円であつた。

二、ところが地代の統制額は建設省告示第一四一八号により昭和二七年一二月一日以降地方税法第三四二条の規定による固定資産課税台帳に登録せられた評価格の一〇〇〇分の三を乗じて得た額に改訂され、前記三筆の宅地合計三五坪五合三勺の昭和二七年度の右評価額は合計金一四七四、五〇〇円で、一坪当りの坪価格はいずれも金四一、五〇〇円であるから、昭和二八年四月一日よりの統制賃料額は一坪当り月額金一二四円五〇銭の割合となる。而して右計算により算出したる統制賃料額は被告稲垣の借地一八坪一合三勺に対する分は一月に付金二、二五三円、被告藤原の借地一七坪四合に対する分は同金二、一六六円となりそれぞれの額に改訂されたことになる。よつて原告は被告らに対し昭和二八年三月頃同年四月分よりの地代に付各右割合により増額をすべき旨意思表示をしたのであるが被告等はいずれもこれに応じない。

三、のみならず被告両名は共に本件借地上に各木造瓦葺二階建、地下室を加えると三層造りの家屋を築造所有し右家屋において風俗営業(飲食店)を営んでいるから、本来本件宅地は昭和二五年ボ政令第二二五号による改正後の地代家賃統制令第二三条第二項により昭和二五年七月一一日より地代統制の対象より除外されているのである。原告は、従前の右賃料額は公租公課の増徴、経済事情の変動により不相当となつたので被告等に対し昭和二八年八月一八日附内容証明郵便を以て更に右理由に基き昭和二八年八月一日以降の被告等の右各地代を一ケ月に付一坪当り金八〇〇円の割に増額する旨の意思表示をした。その結果本件地代は被告稲垣の分は一ケ月に付合計金一四、五〇四円、被告藤原の分は同金一三、九二〇円の割合となつたが被告等は依然これを承諾せずその支払もしない。

四、よつて原告は被告等に対し右各割合により算出したる昭和二八年四月一日以降昭和三一年三月末日迄の地代の支払を求めるものである。すなわち被告稲垣に対しては昭和二八年四月一日より同年七月末日までは一ケ月に付金二、二五三円、同年八月一日より昭和三一年三月末日迄は同金一四、五〇四円の各割合で右期間総計金四七三、一四〇円、被告藤原に対しては昭和二八年四月一日より同年七月末日までは一ケ月に付金二、一六六円、同年八月一日より昭和三一年三月末日までは同金一三、九二〇円の各割合で右期間総計金四五四、一〇四円の各支払を求めるため本訴請求に及んだと陳べ、

被告らの主張に対し

一、原告は本件宅地三筆計三五坪五合三勺を昭和二一年一〇月二九日附公正証書に基き被告稲垣に対し飲食店営業の用途に使用する目的で賃貸したところ、その後同被告は東方において建物の敷地一八、一三坪を留保し、西方の残部一七、四坪に対する賃貸借を解除して原告にこれを返還したので原告は昭和二三年一〇月二七日被告藤原に対し同様飲食店営業を営むために使用する条件で被告稲垣より返還をうけた右一七坪四合を賃貸したもので、現に被告らは共に本件賃借地上で飲食店を営んでいるのである。而して被告等がかりに本件借地上の全家屋を営業用に使用せずその一部を住居の用に使用しているとしても、被告等は各その建物の所有者でその借主でないからその地代については統制は解除されている。

二、なお本件三筆の土地の時価は坪当り単価一五万円でその総額は五三九、五〇〇円で、(イ)これに対する年六分の利廻は金三一九、七七〇円、(ロ)本件土地に対する昭和二九年度の固定資産の評価額は金二、一七五、九〇〇円で、その税額は金三四、八一〇円であり、右(イ)(ロ)の合計額は金三五四、五八〇円であり、また原告が本件賃借権設定に際し何人よりも権利金、または敷金を受取つていないのであるから、いかなる見地に立つも原告主張の地代額は適正なものというべきであると附陳した。

三、かりに被告藤原が本件借地上の建物を自己の営業用に使用していないものとしても、同被告は法律上当然統制賃料額の割合で本訴請求期間の地代を支払わねばならない。而して同被告の右統制賃料算定の基礎は別紙第二、地代算定表のとおりで、その額は昭和二八年四月一日より昭和二九年三月末日までは月額金二、一六六円、同年四月一日より昭和三〇年三月末日までは月額金三、一九六円、同年四月一日より昭和三一年三月末日までは月額金四、一七二円となつているから、原告は同被告に対し右各割合により右期間の地代を予備的に請求する。

(答弁)

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として

一、原告主張の請求原因第一項の事実は全部、第二項中法令の改正の結果被告等の地代統制額が原告主張の頃よりその主張の額に改訂されたこと、第三項中被告両名が本件地上に原告主張のような三層建建物を所有すること並に被告等が原告主張の日時頃その主張のような地代増額請求の内容証明郵便を各受領したこと、並に昭和二八年四月一日より昭和三一年三月末日までの被告藤原の地代統制額が夫々原告主張通りの額であることはいずれもこれを争わないがその他の原告主張事実はすべて争う。

二、統制解除を前提としてなされた原告の被告等に対する第二回目の地代増額請求はいずれも失当である。すなわち被告稲垣は本件借地上の家屋一階表の間一部を飲食店営業の用に供しているだけでその余の部分は住宅として使用しており、被告藤原は本件借地上の家屋を住宅に専用している。従つて被告等の本件借地の地代はいずれも地代家賃統制令によつて統制を受けているものであるから原告は自由にこれを増額することは出来ない。然るに原告は昭和二八年四月末被告等が請求原因第一項記載の従前の約定賃料を弁済のために現実に提供したに拘らず、無法にも多額の地代値上を要求してこれを受領しないので被告等は同月分以降右約定賃料額を大阪法務局に供託している。

三、被告稲垣は本件地上建物の一部を使用して飲食店営業をし他の部分は居住の用に供しているからその敷地の地代が統制をうけることは前述のとおりである。詳述すれば、右建物は地代家賃統制令第二三条第二項但書前段にいう「建物のうち居住の用に供する部分」あるものに該当し、本件敷地は同但書にいう「その建物の敷地」に該当するから、本件借地は右但書により統制解除の対象より除外されていること疑ない。すなわち被告稲垣の本件地代は統制に服するものである。また被告藤原の本件地上建物は専用住宅であるから、それが同令第二三条第二項各号にいう建物に該当しないこと、従つてその地代が統制に服するこというまでもない。

四、かりに然らずして被告稲垣の本件地代については統制の解除あるものとしても、月額坪八〇〇円という原告の増額請求は著しく不当過大であるから到底応じられない。

〈立証省略〉

理由

一、原告が別紙第一、物件目録記載の宅地三筆の所有者であること、被告稲垣がその内一八坪一合三勺を昭和二一年一〇月二一日以降、被告藤原がその内一七坪四合を昭和二三年三月一日以降、夫々賃借してきたこと、右各約定賃料額が当初地代家賃統制令に準拠してその制限範囲内で定められ、その後数度の改訂を経て昭和二八年三月当時の約定賃料額が被告稲垣の分は月額金一、六〇〇円、被告藤原の分は同金一、五〇〇円であつたことはいずれも当事者間に争がない。

二、而して原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨を綜合すれば原告は被告らに対し昭和二八年三月頃同年四月一日以降の右各地代につき、被告稲垣の分を月額金二、二五三円に、被告藤原の分を月額金二、一六六円に、それぞれ増額する旨の意思表示をしたことが認められる。而して右増額請求をした地代額が各借地についての昭和二八年四月一日以降の統制額であることは当事者間に争のないところであるから、被告らに対する右増額請求の意思表示は法律上当然所期の効力を生じたものといわねばならない。けだし地代増額請求権はその性質形成権で、その効力は増額事由が発生している限りその意思表示をまつて法律上当然相当額について生じ、一般に該請求額が統制額に一致するときは特別の主張立証のない限り右統制額を以て客観的に相当な地代額と認むべきであるからである。よつて被告らは昭和二八年四月一日以降同年七月末日迄は原告主張通りの割合による各地代を支払わなければならない。

被告等は昭和二八年四月一日以降の地代は従前の地代額で各供託している旨抗弁するけれども、右供託額が右値上額に満たない以上右抗弁は主張自体理由ないものといわねばならない。

三、よつて更に進んで原告主張の第二回目の増額請求について判断を進める。原告が昭和二八年八月一八日内容証明郵便で被告等に対し同年八月一日以降の各地代をいずれも一坪当り月額金八〇〇円(被告稲垣の分は月額合計金一四、五〇四円、被告藤原の分は同金一三、九二〇円)の割に増額すべき旨の意思表示をなし、右意思表示が各その頃被告等に到達したことは本件各当事者間に争がない。

(一)  そこで先づ本件各地代について当時統制が解除されていたかどうかについて判断する。成立に争のない甲第一、二号証、同第五号証、同第八号証の九乃至一二に、証人本田ふさ及び被告両名各本人の各供述並に検証の結果を綜合すれば被告等の本件各借地はいずれも大阪市内の中心部にあり、相接続し被告稲垣の分は東側、被告藤原の分はその西側にあり、いずれも表側は久左衛門町街路に面し、裏側は道頓堀川に面し、しかも附近一帯は商店料理店旅館等多くいわゆる商業地帯に属すること、被告稲垣が当初本件三筆の土地全部を同所において飲食店営業を営むために原告より借地し、その頃右借地のうち西部において一七坪四合を原告に返還し(一部合意解除)、東方の一八坪一合三勺を引続き借り受け現在に至ること、爾来同被告は右借地上に三層建建物(地階一階地上二階)を建設所有しこれを使用して自ら飲食店営業をしていること、その営業用床面積は一〇坪以上あり、その余の部分は家族従業員の居住の用に供していること、被告藤原は被告稲垣が原告に返還した右一七坪四合を原告より賃借したものであるが、右借入当時被告藤原は他所において飲食店営業をしており、飲食店営業を営む目的で本件土地を借入れたものであること同被告は右賃借後右地上に被告稲垣同様三層建建物を所有し現にこれを自己において使用していること、その建物の構え、間取等は旅館料理店向であること、同被告はその東寄筋向いにおいて旅館「沢の井」を経営していること、を夫々認めることが出来る。右認定に反する被告両名の各供述部分は措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

被告藤原は本件借地上の右建物を専用住宅として使用していると主張するけれどもこの点に関する同被告本人の供述は信用し難く他にこれを肯認するに足る資料はない。却つて前認定の事実からみれば、被告藤原は右建物を自己の経営する前記旅館営業のために使用していると推認することが出来る。

果してそうだとすれば被告等はいずれも借地上に自己の建物を所有し、且つこれを自己の事業用に供しているものというべきで、このように持家を自己の事業用に供している場合は、その建物の事業用床面積の広狭に拘らず、又その建物の一部を自己又は従業員の居住の用に供していると否に拘らず、その敷地の地代については統制令の適用がないものと解するを相当とする(昭和三一年法律第七五号による改正前の地代家賃統制令第二三条第二項本文六号)だから本件被告等の地代については統制が解除されたものというべきである。

被告稲垣は本件借地上の建物は「建物のうち居住の用に供する部分」ある建物であるからその建物の敷地については地代家賃統制令第二三条第二項但書前段の適用がある旨主張するけれども、昭和三一年法律第七五号による改正前の地代家賃統制令第二三条第二項但書は同条第三項、同令施行規則第一〇条、第一一条の解釈上借家を前提とした規定であつて、借家及び借家の敷地についてのみその適用あり、本件のように持家の敷地については適用の余地ないものといわねばならぬから、右主張は採用の限でない。(詳細については当庁昭和三一年八月九日言渡昭和二八年(ワ)第三、七九三号事件判決参照)

(二)  そこで右増額請求当時の地代はいくらを以て相当とするかについて考えてみる。鑑定人佃順太郎の鑑定の結果によれば被告らの本件各借地について交通上の便否、地勢、地形、環境、利用価値、利用状況を考慮して、被告稲垣の本件賃借地一八坪一合三勺の昭和二八年八月一日以降の地代は月額金九、七〇五円(単価坪当り金五三五円三二銭)を相当とすべく、被告藤原の本件借地一七坪四合のそれは月額金九、三一五円(単価右同)を相当とすべきことが認められる。右認定に牴触する鑑定人森本利高の鑑定の結果は措信し難く、他に右認定をくつがえすに足る適確な資料がない。そうだとすれば原告が昭和二八年八月一六日になした被告等に対する右地代増額の意思表示はそれぞれ右認定額の範囲において地代値上の効力を生じ、その結果被告稲垣の本件地代は昭和二八年八月一日以降昭和三一年三月末日迄は月額金九、七〇五円、被告藤原の本件地代は右期間月頃金九、三一五円となつたといわねばならない。もつとも(イ)右各増額の意思表示をしたのは昭和二八年八月一八日であるのにその効力が同月一日に遡ることについては疑なしとしないが、後になつてからずつと前の月分にまで遡つて地代の増額を請求するのと異り(かくの如きは許されない)、当該値上の請求をした月の初日にさかのぼり将来に向つて増額を請求することは、統制賃料たると否に拘らず、妨げないと解するを相当とする。(ロ)また前記鑑定人佃順太郎の鑑定の結果によればその後昭和二九年四月一日以降の地代に付増額事由が認められ、その結果同日以降被告稲垣の分は月額金一一、六三三円、被告藤原の分は同金一一、一六四円を相当とするに至つたことが認められる。けれども本件において原告がその後右増額事由の発生に基き更に増額請求をしたという主張立証はないから当然に爾後の右増額の効果を認めることは出来ない。けだし、増額請求の効果はその意思表示をまつて当然生じるがその後重ねて増額事由が発生したときと雖も自動的に段階的に増額の効果を生じるものではない(大審院昭和一七年四月三〇日判決集民第二一巻四七二頁)。から、その後増額事由発生したときはそれが前の増額請求額の範囲内である場合でも、改めて増額請求の意思表示をなすを要すべく、訴訟係属中においても当然に右形成権の行使ありたるものと解することは出来ないからである。

四、果して然らば被告稲垣は原告に対し本件借地の地代として昭和二八年四月一日より同年七月末日までは月額金二、二五三円の割合で(四ケ月分)計金九、〇一二円、同年八月一日より昭和三一年三月末日までは月額金九、七〇五円の割合で(三二ケ月分)計金三一〇、五六〇円、右総計金三一九、五七二円の支払義務あるもの、被告藤原は原告に対し本件借地の地代として昭和二八年四月一日より同年七月末日迄月額金二、一六六円の割合により(四ケ月分)合計金八、六六四円、同年八月一日より昭和三一年三月末日までは月額金九、三一五円の割合により(三二ケ月分)合計金二九八、〇八〇円、右総計金三〇六、七四四円の支払義務がある。従つて右認定の範囲内における被告等に対する原告の本件地代請求はいずれもその理由があるのでこれを認容し、その余の部分は理由ないものとしてこれを棄却する。

五、終に当裁判所が本件訴訟を、本「判決事実」に記載したとおり、被告らに対する地代請求の給付訴訟と解したことについて一言しておく。

(イ)  本件訴訟において請求の趣旨を文字通り読めば地代請求訴訟の外に地代確定訴訟の併合提起あるかの如き疑念が生じる。

例えば被告稲垣に対する請求の趣旨が「被告稲垣は原告に対し、別紙第一、物件目録記載の宅地の内原告より賃借せる一八坪一合三勺の地代が昭和二八年四月一日より同年七月末日までは一ケ月に付金二、二五三円、同年八月一日より昭和三一年三月末日までは同金一四、五〇四円の各割合なることを確認し、且つ昭和二八年四月一日から昭和三一年三月末日迄の右各割合による地代合計金四七三、一四〇円を支払え」というが如きそれである(被告藤原に対しても同様)。

そこでかりに本件訴訟が右給付と確認の両訴を併合提起されたものと解するとすると、右両訴は全く訴訟物を一にすること疑を容れる余地ない。けだし、そのいずれの訴訟においてもその訴訟物は同一土地に対する(過去の)同一期間の地代請求権(延滞地代請求権)である。同一地代について給付訴訟提起するに拘らず、重ねて確認訴訟を提起するが如きは許されないものといわねばならぬ(民訴法第二三一条)。けだし、訴訟物を異にして(例えば所有権に基く物の引渡請求と所有権確認請求)給付と確認の両訴を提起することは許さるべきであるにしても、全く同一の給付請求権について給付と確認の両訴を提起することは、少くとも確認請求の部分については権利保護の利益ないものとして、許さるべきでないといわねばならぬ。詳述するならば、給付訴訟における原告勝訴の判決は当然原告の給付請求権の存在を確定すべく、また原告敗訴の判決は当然右請求権の不存在を確定するもので、給付訴訟は当然当該訴訟物たる権利についての確認訴訟を包含しているというべきである。かくて原告の訴旨もし右両訴を併合提起するにあるとせば少くとも給付訴訟に包含せられる限度において確認請求の部分は利益なきものとして却下を免れないであろう(確認訴訟の補充性格からみて、本件のような地代請求権については、給付訴訟を提起出来るのであるから確認訴訟は許されないとの見解も考えられるが、当裁判所は確認訴訟の補充性なるものを認めず、又地代増額請求については給付又は確認の両訴中より任意にその一形態をえらびうると考える)。

(ロ)  ところで、他方請求の趣旨は訴訟における結論的申立であるから、一定期間の地代請求訴訟における請求の趣旨としては「被告は原告に対し金何円を支払え」と申立てれば足る。而してこの申立がある限りその訴訟物たる当該期間の地代請求権の有無及び範囲は審理判断され既判力を以てその存否が確定される。従つて請求趣旨中に詳細右以外の請求原因において主張されるところと重復詳述することは全く駄足というべきである。例えば被告は原告に対し何時から何時まで金何円の割で地代を支払え」とか或は給付訴訟における前記確認訴訟的性格に着目して「被告は原告に対し地代が何時から何時までは金何円なることを確認し且つ右割合により支払え」と申立てるが如きはいずれも駄足たることに変りない。しかしこのような場合駄足であるからといつて当該申立が不適法となるわけでないからこれを許容すべく、最後の場合はこれを駄足とみる限り給付訴訟と解しなければならぬ。

(ハ)  そこで本件訴訟は右(イ)(ロ)のいずれとこれを解すべきであるか。思うに、本件のように全く同一の訴訟物について給付と確認の訴訟の併合提起あると疑われるような場合はむしろ給付訴訟一本と解するを相当とする。けだし給付訴訟の提起ある以上は当然当該訴訟物たる給付請求権の存否は確定されるのであるから、当事者が重ねて無益な確認訴訟を提起したとみることはその真意にそわないところであるからである(同一の理由により確認訴訟中に全く同一の訴訟物について給付訴訟を併合提起してきた場合は特別の事情ない限り訴の変更とみるべく、給付訴訟中に同一訴訟物について確認訴訟を併合提起してきた場合は前訴の取下ない限り後訴は却下されるべきであろう。

(ニ)  本件訴訟を特定期間の地代請求訴訟と解するとして、なお原告は被告藤原に対する地代の統制解除が認められない場合を顧慮して、予備的請求の趣旨として、「同被告は原告に対し本件請求期間の地代を統制額の割で支払え」と申立てるが、このような申立も全く駄足といわねばならない。けだし攻撃防禦方法について予備的主張あるに止り、請求の予備的併合のない本件においてこのような申立は原告が全部認容の判決を得られない場合を慮り同一請求について一部認容の判決を求めるにすぎない。而して第一位の請求についての審理過程において請求の一部が認容される限りかかる申立がなくともその旨の判決がなされるべきこというまでもなく、かかる申立は第二位の請求を欠くものであるから民訴法上のいわゆる予備的申立ではない。従つて本件判決事実にはこれを記載しなかつた。

以上のとおり本件訴訟は給付訴訟であるから、主文において、請求認容の部分についても、請求権の確認的表現をする要ないものと認める(反対、横浜地方小田原支部、昭和二七年(ワ)第四二号昭和二八年二月二二日判決、下級民集四巻二号二七〇頁)。

よつて民事訴訟法第八九条第九三条但書第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎)

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